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135 Episode 106: Looks like youre going to lose your temper.

    手を繋いで、俺たちは宿の中へと入る。


    胸の高鳴りは、以前に訪れたときとはまた違った理由で高鳴っている。期待と不安が合わさったような感覚が渦巻いている。


    緊張に身が固くなるのを感じながら、俺たちは受付に向かった。


    受付にいた女性は俺たちの姿を確認すると口を開く。


    「ようこそいらっしゃいました。……本日はお泊まりで?」


    「ああ……頼む」


    俺はとりあえず首を縦に振った。後ろめたいことではないはずなのに、今からアイナとのことを考えると、妙にやましい気持ちになってしまうのが不思議だ。


    「あら? お客様、もしかして……」


    ふと、受付の女性が何かに気が付いたかのように言った。それから彼女は俺とアイナを交互に見て、ニコリと笑みを浮かべた。


    「なるほど、そういうことですか」


    「あの……何か?」


    「いえいえ、当宿(やど)をご利用頂きまことにありがとうございます。あ、ちょっといいかしら」


    それから、受付の女性は付近を通りかかった女性に声を掛けた。どうやら彼女も従業員のようだが。


    「どうしたの? ……あ、もしかしてその人って――」


    従業員も俺の顔を見るなり何かに気が付いたかのような反応を見せる。一体どうしたのだろうか。


    「ええ、その通りよ。それで、こちらのお嬢さんをお願いできるかしら」


    「もちろん、任せてちょうだい」


    そう言って頷いた従業員は、アイナの手を取った。


    「え?」


    「さぁさぁ、お嬢様はまずこちらへどうぞ」


    「え? え?」


    理解が追い つかないアイナは疑問の声を発しながら、言われるがままに宿の奥へと連れて行かれた。


    「………………いやちょっと!?」


    完全に置いてけぼりを食らった俺は、数秒ほど停止してから我に返った。慌てて止めに入ろうとしたが、


    「ご安心下さい。今日はお二人の〝記念日?とお見受けしたので、少しばかりサービスです」


    「サービスってなにさ!?」


    「それは後でのお楽しみということで」


    記念日って――もしかして俺たちが〝初めて?だってのはバレバレなのか?


    『素人が見てもバレバレなくらいに甘ったるくて初々しい雰囲気だったぜ。俺が人間だったら胸焼けして寝込んじまうくらいにな』


    グラムが呆れたように言った。


    「それはそうとして……」


    受付の女性はズイッと俺を覗き見るように顔を近づけてきた。


    娼婦を斡旋する場でもあるためか、従業員の一人である彼女もかなり綺麗だ。


    常日頃からアイナやキュネイ、ミカゲと美人たちを見ていたおかげで前よりは耐性が付いている。けれども、こうも至近距離で見つめられると、恋人たちに済まない気持ちを抱きつつもドギマギしてしまう。


    顔を離した受付の女性は、俺の気の抜けた反応が可笑しかったのか、口元に手を当ててクスクスと笑った。


    「私の顔、見覚えありませんか?」


    言われてようやく思い出したが、彼女は俺が以前にここを訪れたときに対応してくれた女性だ。


    「覚えてたのか……」


    「それはもう。知ってましたか? あなたは私だけではなく、王都にいる娼婦の間ではかなりの有名人なんですよ?」


    「……どういう意味だ?」


    「言葉通りの意味ですよ」


    どうやら、俺の名前というのは俺が思っていた以上に知れ渡っているらしい。


    キュネイはこの王都で最も有名な高級娼婦。美貌と器量を兼ね揃えていた彼女は、同じ娼婦たちからも多くの羨望を集めていた。


    そんな彼女を見事に射止めたのがユキナという傭兵――つまりは俺である。


    「あの人が娼婦を辞めると聞いたときも驚きましたけど、その理由がまさかあの時のお上りさんだと知ったときの方がよっぽどびっくりしましたよ」


    「俺も、あんな極上の女を恋人に出来た自分自身にびっくりしてたよ」


    「でしょうね」


    誰もが憧れ、誰にも手が届かず、僅かばかりの時間を愛でるだけが精々の、そのくらいにキュネイという存在は高嶺の華だったのだろう。


    「加えて、ここしばらくの傭兵としての活躍も聞き及んでいます。世間では勇者が多くの評価を集めているようですが、我々のような日陰者にとってはむしろ、その経緯を含めてあなたの方が親しみを持てます」


    「まぁ……勇者は娼婦宿なんぞ利用しねぇだろうからな」


    娼婦を悪し様に言いたくはないが、少なくとも表に堂々と看板を上げられるような職業ではない。彼女たちにとって、清廉潔白な勇者は眩しすぎるのかもしれない。


    それよりも、一時とはいえ女(キュネイ)を買うために金を稼いでいた俺の方が好感を持てるのは分かる気がする。


    「それに――」


    受付の女性は俺の耳元に口を寄せると囁くように言った。


    「先ほどのお嬢さん。もしや王女様ではないのですか?」


    まさかのことに、俺はぎょっとしてしまった。


    予想が当たっていたことに満足したのか、またもや受付の女性がクスリと笑った。


    「この宿で女と一夜を共にするのは、なにも平民だけではございませんので。……案外、娼婦の情報力というのは馬鹿に出来ませんよ?」


    おい、どういうことだよグラム先生。


    反射的に念話(チャンネル)で問いかけた。


    『まったく、困ったらすーぐに俺に聞くんだからこの相棒は。つまり、国政に関わるお偉方も、この宿でエロいお姉さん方と火遊びに興じてるってことだよ。でもって、お姉さんがおっぱいポロリするくらいにのノリで、やベぇ情報もポロリしてんだろうさ』


    ポロリさせてポロリするわけか……上手くねぇよ、単なる下品だよ。


    「ご安心下さい。当宿(やど)はお客様の情報を他に漏らすようなことが一切ございませんので」


    「そりゃ助かるが……」


    「とはいえ、あのこの王都一の娼婦だけではなく、この王都一のお嬢様(???)を手中に収めるとは、驚かされるばかりです。以前にこの宿にいらしたときには、単なる田舎者のお上りさんとばかり思っていましたのに」


    従業員の女性は俺の顔に手を伸ばした。


    「いったいどのような手を使ってあの方々をオトしたのか。私も一度は身をもって体験したいものです」


    そこにいたのは単なる受付ではない。己の躯を武器とし、男に一夜の夢を見せることを生業とする一人の娼婦がいた。


    男の心を刺激することに長けたその口調や仕草は、妖艶の一言では済まされない魅力を秘めていた。


    とはいえ、だ。


    「俺、彼女いるんで結構です」


    頬に添えられた繊細な手をやんわりと引き剥がす。恋人(アイナ)が待っているのだから当然だな。


    「あら、つれないですね」


    ショックを受けたような口ぶりではあったが、表情は明るい。断られることを前提としたお誘いだったようだ。


    「って、結局アイナはどこに連れて行かれたんだ?」


    なにかがあればグラムが知らせてくれるだろうから、変なことはされていないのだろう。だが、それで心配にならないわけでもなかった。


    「そろそろ頃合いでしょうね。では、お部屋の方にご案内させて頂きます」


    俺の質問を受け流し、受付の女性は俺を先導するように歩き始めた。答えをもらえなくとも放置できるはずもなく、俺は黙って彼女の後に続いた。
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