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54-Housekeeping battle before request

    選定品持参競争なる勝負の準備は済み、手入れは全くされていないが、やたら広い中庭に全員出てくる。


    「はい! じゃあ、紙を引いてもらうわよー。お兄さん、準備はいい?」


    「あ、はい」


    祐人がテントから取ってきて、ティッシュ箱を改造して作った、くじ引き箱を出す。


    「では、先程言った通りに、お兄さんが持参しなくてはならないものが書いてある紙を引いてね。まずはスーザンの方のものから」


    祐人は、ちょっと緊張しながら箱に手を突っ込み、折りたたんだ一枚の紙を取り出した。


    「はい、こちらに渡して。えーと内容は……」


    嬌子は、スーザンと一緒にその紙を覗き込むように見る。すると、スーザンの顔がボッと、音が聞えるように朱色に染まった。


    (なんだ? 何が書いてあるんだ?)


    「ああ、始まったよ……」


    「あれ絶対、嬌子が書いたやつだぞ」


    周りの人外からウンザリした声が聞えてくる。


    「スーザンは【最近会った異性の中で一番気に入った人の身に付けている下着】でーす!」


    「えぇ――!!」


    祐人は目を丸くして叫ぶ。


    (それって……? いったい何を書いてんだ! この人は! しかも、それは判定できるの?)


    スーザンは赤くなりながらも、明らかにこちらを凝視している。


    祐人は悪寒が走り、無意識に後ずさった。


    「はいはい。どうやらスーザンは、もう決まっているみたいね。ふふふ、モテモテね、お兄さん。じゃ、早くお兄さんのを引いてねー」


    嬌子は満面の笑みで催促してくる。


    (これは……絶対に自分が書いたものを引かなくちゃダメだ!)


    祐人は祈るように箱に手を入れた。頼む! 頼む! と何度も心の中で反芻しながら、一枚の紙を取り出した。


    「はい! こちらに渡してね。ふふふ。何かな、何かなぁ? ちっ、当たりか……」


    その嬌子の反応に、祐人は心から安堵した表情になる。


    (よし! 自分の書いたやつだな!)


    つまらなそうに、ふて腐れた嬌子から紙を受け取る。


    内容は何かな? 【袴田一悟の最近買ったゲームソフト】かな? 【スナック菓子キラキラコーン照り焼き風味】(レアで祐人の知っている限りこの辺りでは一店舗でしか売っていない)かな? と折り畳んだ紙を広げる。


    「えーと……」


    【異性の下着】


    「は?」


    祐人の動きがピタッと止まる。目を腕で擦り、もう一度、内容を見直す。


    「いせいの……したぎ?」


    書いてある内容は、一言……【異性の下着】


    「こ、これのどこが! 当たりなんだーーーーー!!」


    「だってぇー、私が書いたものの中で、一番簡単なものだものー」


    「ちょっと! こんなのしか書いてないのか、あなたは!」


    祐人は箱の中の紙を全部取り出した。


    祐人の書いたものを除き、嬌子の筆跡らしき紙には、スーザンが引いたものと同じ【最近会った異性の中で一番気に入った人の身に付けている下着】が八枚。


    一枚だけ【嬌子の下着(真剣に逃げるわよ~、お兄さんは要交渉)】が入っていた。


    「…………」


    クッ、確かに当たりといえば当たりだが……。祐人は嬌子を睨む。


    「あ~あ。じゃあ、ちょっと興が削がれたけど、さっそく勝負を始めるわよ。いい?」


    「……っ、仕方が無い(てか、どうすんだコレ)」


    「……(コク)」


    嬌子は掛け声の前に右手を上げる。


    「では……」


    祐人は、どうするか? と一秒に千回転ぐらい頭を回している。


    (異性の下着……。そんなものどうすりゃいいんだ! 誰かから借りるか?)


    一瞬、茉莉の顔が浮かぶ……。


    祐人は激しく頭を振った。


    (誰が貸してくれるんだよ! ド変態扱いされて終わりだよ!)


    実家に帰っても祖父との二人暮らしだった。そんな物があるわけが無い。というより、あったらまずい。でも、あの祖父ならと考えて……いや、探さない方がいい気がしてきた。


    それは精神衛生上のためだ。


    (……そ、そうだ! 買うしかない! 恥ずかしいけど、ここは買うしかない)


    と考えているうちに、嬌子の手が振り下ろされる。


    「スタート!!」


    祐人は掛け声と同時に、スーザンが自分に飛び掛ってきたのを確認する。


    いや……それが分かっただけでも、祐人という人間は規格外であったと言える。


    恐るべきスピードとその爆発的な瞬発力。彼女を人外と分かっていなければ考えられない動き。地面にはスーザンの踏み込んだ足の跡が深くめり込んでいる。


    だが祐人には予想通りだった。スーザンの爆発的なスピードの飛び込みに対し、左足を軸に最小限の円運動でかわす。


    すれ違い様のそのコンマ数秒に、両者の目が合った。スーザンの驚愕した顔が祐人からはっきりと見てとれる。


    スーザンはすぐに元の表情に戻り、祐人にかわされた後もスピードを殺さないまま、前方の庭に生えている大きな木の幹に飛びつき、三角飛びの要領で自分を円運動でかわした祐人の斜め後ろから迫る。その勢いで巨木がゆらゆらと揺れた。


    祐人はそれに対し、咄嗟に左腕を斜め後方、スーザンの方に防御するように出した。


    スーザンは、ほんのちょっとだけ口を緩める。瞬時に祐人の出した左手を掴むことに方針を変えた。そもそもスーザンのミッションは、まず祐人を捕まえなければならないのだ。


    スーザンの手が祐人の左腕を掴む……はずが、掴む瞬間に祐人の左腕がうねるように上下に動く。体の軸は円運動を止めないままである。


    祐人の腕にスーザンの手は触れている。 後は掴むだけなのだが、その腕が絶妙なスピードで下から上へ波打つように動き、触っているのだが、その実感が薄く、掴めない。


    それでも腕を取ろうとするスーザンは、まるで、祐人の腕に導かれるように上方へ跳ぶ。というより、跳ばされてしまった。


    スーザンは数メートル上にジャンプさせられ、祐人が一瞬、視界から消えてしまう。


    さらに、それと同時にスーザンは自分の背後に、何者かが跳んできた気配を感じた。


    背後をとられるという最悪の状況に、スーザンは今度こそ勝ったと思う。


    自分が跳んだなら、祐人は何らかの攻撃が出来ただろう……。でも飛べたとしたら、話は違う。


    突然、スーザンの華奢な背中から美しく、そして燃えるような深紅の翼が出てくる。その翼を羽ばたかせ、振り返りざまに祐人の手を掴み、上空で背後に回り込むと羽交い絞めにした。


    スーザンのその乏しい表情からは分かりづらいが「捕まえたよ」という顔になる。


    「スーザン! あっしです。あっしですって! 兄ちゃんに投げられたんですって! わわわ、ちょっと離さないで! あっしは飛べないんですよ!」


    「……!」


    羽交い絞めにしたと思ったその背後の気配は、祐人ではなく玄に入れ替わっていた。驚き、祐人を上空から探すが、その姿は見当たらない。


    下方で嬌子や白、サリーも驚いて、祐人を探している姿が見える。どうやら、嬌子達にも祐人と玄の入れ替わりが分からなかったようだ。


    スーザンはハッとして、屋根の上に玄を降ろし、すぐに街に向って飛び去った。


    嬌子の他、人外達も上空で遠ざかるスーザンの姿を見つめている。


    この攻防の間、一分も経っていない。


    力無く、白が呆然と嬌子とサリーの間に立つ。


    「ひょっとして……、お兄さんって……すごい人?」


    「……見事な体捌き」


    その横で長髪の美青年が思わず唸った。


    (よし! 何とか撒いたな!)


    祐人は既に家の敷地を飛び出し、駅の方に向っていた。


    (でも……スーザンは飛べるのか。鳥の化生か何かなのだろうな。上空にも気を付けないといけないな……)


    だが、ここからが問題だ。ただ逃げれば良いという訳ではない。この勝負は出されたお題をクリアしなければならないのだ。


    それを考えると、祐人はまた頭が痛い。


    とにかく、駅前の専門店の入っているモールの下着売り場に行くことを決める。祐人は上空を含め、周囲を警戒しつつ、人混みに紛れてショッピングモールに向った。


    モールの入り口で、売り場の地図を素早く確認すると、遂に祐人はモールの三階にあるレディースフロアの下着売り場に着いた。これまで、時間的なロスはまったく無い。


    あとは女性下着を買って帰るだけなのだが……。


    「……あ、あそこに行けるのか? 僕は……」


    目の前にある女性下着売り場は……祐人からは別世界に見える。


    祐人はこう見えても戦闘における場数はだいぶ踏んでいる。それは一対一、多対一と多対多と、あらゆる場面にも精通し、死にかかったことも一度や二度ではない。


    それは同世代の能力者としては異常なほどの実戦経験。第一線で働いているベテラン能力者の中でも上位に入るだろう。


    それはひとえに、堂杜家の特殊性と入学前の休み中の魔界での経験がものをいっている。そのため、こと戦うことに関していえば、祐人は全く怯まない。


    少しでも心が折れれば、生きてはいけない場所にいたのだ。そういうことにもなるだろう。その経験があればこそ、スーザンの動きにも難なく対処できた。


    祐人はスーザンの動きは驚異的だと正直思う。想像以上に霊格が高いのかも知れない。


    あのコミュニケーション能力の高さを考えれば、恐らくこの考えは正しいだろう。


    だとすれば、急がなくてはならない。スーザンに見つかれば余裕が無くなるし、次回も、うまく撒けるか分からない。とにかく、この勝負には負けられないのだ。


    しかし、今の祐人は……完全に怯んでいた。


    今、向かおうとしている所は、どんな戦場よりも危険な匂いがする。


    そこに行き、目標物を購入して帰りさえすれば、住むところと今後の学生生活と得るものは非常に大きい。


    それは分かっているのだが、祐人はその勇気が出ずに、売り場の横を行ったり来たりしていた。


    そして、通り様に横目でチラチラと目標物を見るものだから、ついに店員が怪しい目つきでこちらを見るようになった。


    (痛い! 痛いよ、視線が)


    しかも、当たり前というか店員は女性。祐人の中でさらにバーが上がっていく。


    それともう一つの深刻な問題に気付く。


    (思っていたよりも値段が高い!)


    祐人は自分の財布の中身を確認する。買えない事も無いけど……。これからの生活を思い、相当な節約生活が必要だと考えている祐人にとって痛すぎる出費だ。


    一旦、祐人は階段のところに避難した。深呼吸をして祐人は目をつぶり精神を集中する……そして決心する。


    よし行くぞ!


    「堂杜君。こんな所で何やってるの?」


    「わー!?」


    祐人は悲鳴を上げて後ろを振り向く。そこには白澤茉莉の友人、元気印の水戸静香が、たじろいだ感じで立っていた。


    「も、もう吃驚させないでよ。一体、どうしたっていうの?」


    よりによって、こんな所で知り合いに会うとは。祐人は自分の運の無さを呪う。


    「水戸さん! いや、これは違うんだ! 何と言うか、今後の住むところ、いや! 人生を勝ちとるというか、生きていくために必要なことで!」


    「え? 何? 何なの?」


    静香は、祐人の取り乱しように首を傾げた。そして、祐人のちょうど後方にある売り場に着目し始める。だんだん、その表情が緩んでいくのを見て、祐人は嫌な予感がした。


    「はっはーん……」


    顎に人差し指と親指を当てて、名探偵が犯人を推理するように頷きだす。


    「あなたは今、あの女性下着売り場に行こうとしていましたね。ふんふん、そして、今後の人生を勝ち取るとの発言……」


    祐人は段々自分の嫌な予感が現実に近づいていることを感じ取る。


    「いや、だから! 多分、それ勘違いだから! 聞く前から分かるから! もう推理しないで!」


    涙目で訴える祐人。ちなみに静香は聞いていない。


    「なるほど……解けました。最近はそういうプレゼントも流行っているのは聞いています。渡す相手は例の旅先であった女の人が濃厚……。まさか、サイズまで聞き出していたとは……」


    「違う、違ーう! もうやめて! 話を聞いて! 旅先の女の人って水戸さんが勝手に想像した人でしょう!」


    大量の涙を流しながら、縋るように首を振る祐人。


    「じゃあ誰の?」


    「誰のものでも無いよ!」


    「まさか! 自分の……。そういう趣味が……これを茉莉が聞いたら何と言うか……。重度中二病に合併症がド変態……」


    「僕の物の訳がないでしょ! 一体、あなたは僕をどうしたいの?」


    この時、既に祐人は下着を購入することを肯定していることに気付いていない。


    静香は、まず大事なことが確認できたと嫌な笑みを見せる。


    「じゃあ誰の?」


    「だから誰のものでもないって!」


    「じゃあ何で買うの?」


    「えーと、これは……。そう! 罰ゲームなんだよ! ゲームに負けて女性の下着を買って来いという指令を受けたの! それで下着売り場に来たはいいけど、どうしようかと思っていて」


    「ふーん、罰ゲームね。うまいことを言う……」


    あからさまに疑わしそうな態度をとる静香。汗が止まらない祐人。


    突然に静香は閃いたような顔になる。


    「ああ、そうか!」


    と言うと、納得したという表情になりニッコリと笑う。


    「堂杜君……」


    「な、何?」


    「サイズとかは知っているの? 適当に買ってもダメなんだよ、こういうものは」


    「え? いや、なんでもいいかなと思ってるんだけど(罰ゲームだから)」


    静香は考えるような顔になる。


    「分かった!」


    「な、何が?」


    「堂杜君は、自分では買いづらいんでしょう? だから、私が買ってきてあげる!」


    祐人は本当に? という顔になる。それは正直、とても魅力的な提案だと思った。


    「予算は? どれぐらいを考えているの?」


    えーと……と祐人はジーパンの後ろのポケットから、財布を取り出して中身を確認しようとする。するとその財布をひょいっと静香に奪われてしまった。


    「あ!」


    「いいから! こういうのはケチっちゃだめ。私はちゃんとサイズも好みも知っているから」


    そう言うと、静香は売り場に向って行ってしまう。


    「ちょっと待って! それには今後の大事な生活費も入っているんだから!」


    慌てて呼び止めるが、売り場の中に入っていく静香を追いかけることが出来ない。


    祐人は行ってしまった静香を呆然と見る。しかし、不安はあるがこれでミッションは遂行できそうだと安堵もしている。あとはスーザンに見つからずに持って帰るだけ。


    (……って、あれ? 誰のサイズと好みを知っているの?)


    打って変わって祐人は言い知れぬ不安を感じた……。
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