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21Novel > A Person With Inferior Ability Returns From Demon World > 118-Return ⑤

118-Return ⑤

    家に着いた祐人は、無駄に広くボロボロで住めない日本家屋の前に設置されているテントに向かうが、何となく家の雰囲気が違うことに気が付いた。


    「あれ? 何か雰囲気が……家がだいぶ綺麗になってない? あ! これは……井戸がでかくなってる!」


    祐人は驚きながら家の縁側の前のテントのところまで来ると、さらに驚く。というのも家の中から明かりが漏れているのだ。


    「こ、これは……」


    祐人は荷物をテントに放り込むと、急いでボロ家だったはずの広い玄関の引き戸を何となくゆっくりと開けた。中に入り、祐人はさっと玄関内を見渡してみる。やはりミレマー出発前と比べ、明らかに綺麗になっていた。


    「あ、帰ってきた!」


    玄関から伸びる廊下奥の左側の襖が開き、そこから飛び出してきた白とスーザンがそのまま飛びついてくる。祐人は白とスーザンをうわっと抱きとめていると、嬌子やサリーたちも全員、顔を出した。


    「お帰りなさい! 祐人。遅いよ! 中々、帰ってこないから心配したんだよ!」


    いち早く飛び出してきた白とスーザンの二人が顔を祐人の胸に押し付けてくる。


    祐人は皆を見渡した。


    ガストンから色々と聞いてはいたが、やはり、この慣れない状況に呆然としてしまう。


    「みんな……覚えてくれてるんだ……」


    「何を言ってるの? 今日あたりに帰ってくるって聞いていたから、忘れるわけがないでしょ!」


    そう言って、心なしかいつもより白とスーザンはきつく抱きついてくる。


    そこにゆったりとした夏物のセーターとデニムのスカートを身に着けた嬌子は日本酒の一升瓶を片手に前に出てくる。どうやら既にちょっと酔っているようだ。


    「みんなねぇ、祐人のこと、まだかまだかと待っていたのよ~。傲光まで珍しくそわそわして……見せてあげたかったわ、その面白い姿を……ってあれ?」


    嬌子が話している間に祐人は目が潤み……唇をきつく閉めて震えながら静かに聞いている。


    「アニキそんなにみんなに会えたのが嬉しかったんですかい? 結構寂しがり屋なんですね」


    「あ! あれ? これはそんなんじゃなくて! おかしいな、何で涙が、ゴ、ゴミかな?」


    その様子を見て、白とスーザンは顔を見合わせると白はニッコリと笑う。


    「そうなの? 祐人。じゃあ、もっと感動させてあげるよ! 見て見て! 傲光と協力してこの家の直せるところをみんなで直したんだよ?」


    祐人は右腕で涙を乱暴に拭くと白の言葉に吃驚してしまった。


    「え? みんなで!? やっぱり気のせいじゃなかったんだ! す、すごいよ、ほとんど直ってるじゃない!」


    祐人は、おおー、と感動しながら家の中を見渡す。


    確かに、襖や障子といった細かいところは、ボロボロのままだが柱や床、そして土壁が、新築のようになっているではないか。


    祐人は感動と仲間への感謝でプルプル震えだす。これは感謝してもしきれないと。


    「うわぁ、すごい! 本当にすごい! これなら……家の修復費もいらない……って待てよ? あれ? じゃあ……今回、こんなに頑張って働かなくても良かったんじゃ……」


    嬉しい半面、祐人はこの事実に気付き……違う意味でプルプル震えだした。


    そこに、嬌子とサリーはニマニマしながら祐人を見つめる。


    「ふふふ、しかも、お風呂まで大きく作り直したから! お湯も井戸の水で沸かせるわよ??」


    「これはとても大事ですー」


    「ほ、本当に? じゃあ、もう銭湯に行かなくてもいいんだ! もう、すごすぎて何て言ったらいいか……」


    「だから、祐人、後で入ってみなさいな」


    「う、うん! 楽しみにしてるよ! うわー、超嬉しい!」


    嬌子とサリーはその祐人のはしゃぎ様に、ニコニコする。


    何故か、二人とも鼻息が荒いが。


    「私も楽しみよ?」


    「私も超楽しみですー」


    その喜ぶ祐人を、ガン見する美女二人。どこか捕食者のような目をしていることに、祐人は気付かない。


    そこにスーザンが喜びを嚙みしめている祐人をチョンチョンと突いた。


    「うん? 何? スーザン」


    「……まだ、ある」


    「え? まだ、他にも何かあるの?」


    「ご飯……作った」


    「え!? 御飯?」


    またしても祐人は驚いた。


    「そうだよ! 女性陣で練習しようって言って、白も頑張ったんだよ! 食材を全部使っちゃったけど……」


    「私も……頑張った」


    「私も頑張りましたー」


    「私は……キッチンドランカーになるから、って途中で追い出されちゃった。結構、料理得意なのに」


    白とスーザン、サリーは一生懸命アピールする。が……祐人が反応したのはそこではなかった。


    「いー! 食材全部!? あれは……一週間分の……」


    「まあ、アニキ! 早く行きましょうや! 今日はアニキの帰還祝いでさぁ」


    祐人の反応に気にもとめず、玄は腕を引っ張る。玄はとにかく何でも祝いたがるのだ。


    祐人もこれだけのことをしてくれた皆には何も言えないな、と諦めた。


    そして、一歩控えたところから、目が覚めるような美丈夫が憚りながら声を掛けてくる。


    「御屋形様……。それでミレマーの方は……」


    「うん? ああ、何とか……うまくいったよ、傲光。みんなのお蔭で! ありがとう! みんな!」


    祐人のお礼に皆、嬉しそうに、それぞれの表情。


    すると、白はピョンピョン飛び跳ねながら祐人に背中を押す。スーザンは右腕に抱きついたままだ。妙に二人のスキンシップが激しい気がする。


    「わーい! じゃあ、早速、お祝いをしよう!」


    「そう! その通り! 祝いましょうぜ!」


    「(コクコク)お祝いは……大事。……好き」


    「はーい! じゃあ、私も取って置きのお酒を出しちゃうわ!」


    白たちは居間へ食事の準備を手伝いに行く。


    それを見送るように祐人は見つめた。


    そのみんなの姿に祐人は何か暖かい気持ちになっていくのが分かる。


    「ふふふ、ひーろと!」


    突然、嬌子は祐人の後ろから手を回し、お酒で朱に染めた顔で祐人の右肩の上に顎を置いた。祐人は背中に嬌子の大きく柔らかいものが押し付けられて背筋が伸びる。


    「な、何!? 嬌子さん」


    「みんなね……今はああだけど、すごく祐人のことを心配していたのよ。白とスーザンだけじゃなく傲光まで祐人の所に迎えに行くって言い出したぐらいなんだから」


    「え? そうだったの? 別にただ、帰ってくるだけなんだから、そんなに心配しなくても……んぐ」


    嬌子は祐人の口に白く細い人差し指を軽く添えた。その嬌子の色っぽい仕草に祐人は顔の温度が上がってしまう。


    「私たちは契約を交わした者たちよ。しかも最上級の契約をね。だからね、祐人に何かあると何となく伝わってくるのよ。祐人が悲しんだり、辛かったりすると特にね……」


    「…………」


    「だからね、今は無理でも……いつか、私たちには何でも話してね」


    そう言うと嬌子は祐人の耳に暖かい息を吹きかけた。


    「わ!」


    祐人は顔を赤くして耳を押さえる。


    「いつでも元気付けて、あ?げ?るわよん。祐人が望むなら今夜にでもね」


    祐人は目を丸くして……こみ上げてきたものを抑えるために鼻を押さえた。


    (そそそ、それって……。ちょっと! 大きいのが! それ以上押し付けないで!)


    祐人は体の血液が沸騰しそうになり、両手を羽ばたかせた。そして至近距離で嬌子の顔見ると嬌子の顔もお酒のせいばかりではなく顔を赤くしているのに気づく。


    えらく経験豊富な女性のように話してくる嬌子だが、それが嬌子流の気の使い方で自分を元気づけようとするものだと分かり祐人は思わず笑ってしまった。


    「あはは、ありがとう……嬌子さん」


    祐人は心からの感謝で、肩をまわしてきている嬌子の手に自分の手を重ねて微笑した。


    「……! あ、えっと! じゃ、じゃあ早く来てね!」


    「え? うん、分かったよ」


    嬌子は一瞬、珍しく狼狽えたような仕草で顔を背けると、日本酒の一升瓶を両手で抱きしめて逃げるように居間の方に小走りで向かう。


    (もう、そんな笑顔は反則よ! 祐人ったら! これじゃあ、もっと本気になりそう……)


    「祐人ー! 早くー」


    「ウガ!」


    相変わらず廊下にいる祐人を皆、居間から顔を出し催促してくる。


    祐人は笑顔で頷き、廊下を歩き出した。


    (……みんな! ありがとう!)


    「あの~、お取り込み中、申し訳ないのですが……」


    後ろから声が掛かり、祐人は振り返る。


    「あ! ガストン! お前、今までどこに!」


    玄関から声がかかり、一旦、居間に向かった嬌子や白たちも玄関に集まってくる。


    「あ、ガストンじゃない。いらっしゃい!」


    「皆さん、どうもです」


    すると長身の目の彫りが深い銀髪の男がヘコヘコと頭を下げながら、愛想笑いを浮かべて玄関の中に入ってきた。


    「ああ、すみません。皆さん……私もここに住もうかと思いまして、やってきました。と言っても、出かけてることが多いとは思いますが。改めまして、私はガストンと申しまして、しがない吸血鬼をやっている者です、よろしくお願いします」


    ミレマーで会ってはいたが、あまりお互いに話しができる時間がなかったのもあり、ガストンは改めて自己紹介をして頭を下げる。すると、ガストンの自己紹介に白たちも目を大きくした。


    「ええ! 吸血鬼ぃ!? ガストンって吸血鬼だったの!?」


    「……吃驚した」


    「ああ、私は知ってたわよ」


    「私もですー」


    「アニキィ~、吸血鬼と契約する節操の無い……いや、器のでかい人間は初めて見ますぜ」


    「御屋形様……流石でございます。吸血鬼ですらその人徳で心服させるとは……」


    「ウガ、ウガ!」


    「あああ、違うんだよ~」


    顔を両手で覆い、嘆く祐人。


    その横でガストンは簡単に経緯を説明する。


    「私は旦那にコテンパンにされまして心を入れ替えました。言われれば何でも致しますんで、何でも仰って下さい」


    白や嬌子は驚き、思わず聞き返す。


    「コテンパンにされたの? 吸血鬼が?」


    「はい、それはもう……。手も足も出ず、死に掛けました。ですが、旦那にその命を救われまして。色々と面倒を抱えていますが、決して迷惑はかけませんので……」


    色々な面倒とは吸血鬼コミュニティと能力者機関との事を言っているんだろう。


    祐人もその件に関しては顔を曇らした。


    だが、そんな細かいことを知らない、また気にもかけない嬌子たちは、


    「まあ、いいんじゃない? 迷惑さえかけなければ」


    「そうだね、どっち道、祐人と契約しちゃってるみたいだし!」


    「別に構わない……」


    とまったく気にしていない様子。


    だが祐人はこの契約の点には慌てる。


    「ちょっと! そういえば、何で? 何でみんないつの間に契約してんの?」


    「ガストンさんも、料理並べるの手伝ってくださいー」


    「さあ! 親分は座っててくださいやし」


    「分かりました。そういうわけで、よろしくお願いします。旦那!」


    「あああ……しかも、誰も人の話を聞いてないし」


    白が皆の前に出てガストンに笑いかける。


    「ガストンって言ったよね?」


    「はい」


    「ここに住みたいなら、一つだけ大事なルールがあるから、知っておいて」


    「はい、何でしょうか」


    「それは、私たちは全員、祐人の友達であること! それと私たちとも! それだけだよ」


    「え? 友達ですか……皆さんとも?」


    「うん!」


    ガストンは意表を突かれた様な顔で祐人の方に振り返った。祐人は頭を掻き、諦めたような態度した後、ガストンに照れた感じで笑いながら頷いた。


    「は、はい……分かりました。こんなに私に友達が……」


    「ありゃ、ガストン泣いてますぜ」


    「泣き虫……」


    嬌子は呆れたように肩を竦める。


    「本当よ、これくらいで。あんた一体何歳なのよ?」


    「えっく、千五百二十九歳です……。ずいません……んく」


    「何だ、まだ若いじゃない。しっかりしなさいな」


    「本当ですー」


    「はい……」


    「え!? それって若いの? じゃあ、嬌子さん達って……」


    途端に嬌子とサリーの目が凍り、半目で無表情になる。


    「あ……いや、何でもないです」


    女性陣の不可視の迫力に祐人は口を噤んだ。


    (一体、何歳なんだろう……)


    「さあ、ガストンもいつまでも泣いてないで、家に上がったら? ねえ祐人」


    「行こう、行こう」


    「うん、そうだね、ほら、ガストン」


    客人が一人増えて、ガストンを玄が案内し居間に嬌子達と先に入っていく。祐人も歩き出すと、白が思い出したように祐人に振り返った。


    「あ、そうだ! 纏蔵っていう人が来て伝言を頼まれたよ?」


    「え! 爺ちゃんが来たの? で、白、爺ちゃんは何て言ってた?」


    「えーっと……、『茉莉ちゃんが連絡しなさいと言っておるぞ、連絡がなければ家に行くと言っておった』とのことだよ」


    「えーー!! それは……まずい! 早く連絡しなきゃ! 絶対、家に来ちゃうよ! で、でも、明日、学校で会うし……」


    祐人は激しく慌てると白とスーザンが祐人の前に迫るように目の前に来た。


    「ねえ、祐人」


    「な、何?」


    「茉莉ちゃんって誰? ……女?」


    何気ない白の質問だが……。


    祐人を見上げる白とスーザン、この話になった途端に居間から四つん馬でこちらを見る嬌子とサリーの顔が……心なしか怖い。


    「え? だ、誰って。どど、同級生だよ! ただの!」


    そう言うと、皆、優しい笑顔になった……気がして、何故かホッと一息。


    そして、祐人は修復された居間の中に入り、再び感動し、これでもかとサリーたちが運んでくる微妙な料理に唖然としつつ、みんなと帰還祝いで盛り上がる。


    「祐人~?」


    お祝い中、かなり酔っぱらった嬌子が突然、祐人の背後から身体ごともたれ掛かってきた。


    顔はもう泥酔寸前。


    「な、何? 嬌子さん(ち、近いよ)」


    「今回、私たち頑張ったわよね~?」


    「う、うん! それは本当に」


    「じゃあ、ご褒美をねだっていい?」


    嬌子のこの言葉を皮切りに、たった今まで賑やかにしていた全員が祐人に集中した。


    「え? ご褒美? そうだね、それぐらいは当然しなくちゃかな? 僕も考えてたし」


    「「「「「やったー!!」」」」」


    「御屋形様……感謝致します」


    「ウガウガ!」


    元々、お礼のことは考えていた祐人だったので、みんなから直接要望を聞けるのはありがたいと思う。やっぱり的外れなものはあげられないし、とも考え、みんなの喜びように祐人も笑顔になった。


    何よりも家の修復費用がだいぶ浮いたと思われることも、祐人を強気にさせており、ある程度の奮発した出費も考えていた。


    「ふふふ、じゃあ、一人ずつ言っていってね、まずは白から」


    「前に嬌子の雑誌に載ってたんだけど、私は遊園地に行きたい! ネズミの国の!」


    うんうん、と、祐人は可愛らしい白のおねだりに頬を緩める。


    「あの大きなネズミ、美味しそうだもん!」


    「食べちゃ駄目ぇぇぇ!!」


    「スーザンは?」


    「……白と一緒」


    おお、スーザンも遊園地かあ、じゃあ、一緒に行けばいいかな?


    「あそこにいるアヒル……」


    「だから、食べちゃ駄目ぇぇぇ!! 焼いても駄目ぇぇ!」


    「玄は?」


    「あっしは、忍者屋敷に行きたいっすね! それを研究したら傲光さんと協力して、この家を……」


    「うん、改造はだめだよ? 住みにくくなるから。見るだけにしよう」


    「ウガロンは?」


    「ウガウガ!」


    「うん? なになに? 散歩をいっぱいして欲しい?」


    「あはは、ウガロン。分かったよ」


    「散歩してくれないと、ストレスで体が大きくなる? この家ぐらい?」


    「絶対する! 散歩は欠かさないよ!」


    「傲光は?」


    「私は、何もいらないです。ですが……もし、許されるのであればですが……僭越ながら御屋形様とお手合わせをお願いしたいです」


    「手合わせ?」


    「はい、出来ればでございますが……一度だけで構いません」


    祐人は傲光のお願いは、自分の稽古にも良いものに思えた。


    今回のミレマーでの一件でも、自分の実力がもっとあれば、あの力を使わずに済んだとも考える。傲光の槍さばきは、見たことがある。これは祐人も剣士としてとても惹かれる提案だった。


    「分かった! 傲光、こちらこそお願いしたいくらいだよ。一度だけだなんて言わないで、時間があれば、いつでもいいよ。僕の剣技についても傲光の意見を是非、聞きたい」


    傲光は目を見開き、箸を置くと体を小刻みに震わす。


    「おお……何というお心の広さ……この傲光、感涙の極み!」


    傲光は泣き出し、周りが見えなくなるほど感動している様子だったので、もう放っておいた。傲光は大げさなんだよ……本当。


    「次はガストン」


    「そうですね~、私は車が欲しいですね」


    「は?」


    「いやー、ミレマーで初めて運転したんですけど、あれは気持ち良いものでした」


    「お前! あれ初めてだったの!? いや、っていうか、車!?」


    「はい、欲しいです、車が」


    さすがにこのガストンのお願いに祐人は即答できなかった。確かに今回、ガストンは大活躍した。確かにしたが……車って、いくらすると思っているのか。


    せっかく浮いたこの家の修復費が消えてしまう可能性が……。


    (な、なんてこと言うんだ、この吸血鬼は!)


    「旦那~、今回の私は役に立ちましたよね?」


    「ぐ! そりゃあ、もちろん。で、でも車って……お前。あ、あれは僕のような未成年が買うのには難しいと思うんだよ。色々と証明書いるし、ていうか、お前、運転免許ないだろうが」


    「取ってきます。ここに行けばいいんでしょう?」


    ガストンが「外国人向けのコースが充実」と書いてある教習所のパンフレットを出した。


    (何なんだ、この用意周到さは! 本当に1500年ぼっちだったのか?)


    「それに車は私が買ってきますので大丈夫です。私はフランス国籍をしっかり持ってますし、ワーキングビザもとってます、はい」


    「な! ぐぐ! で、でも……ハッ、お前、国籍が日本じゃないでしょうが!」


    「はい、調べてみたら、外国人でも日本で新規に取れますんで、大丈夫です。英語の教材だってあります」


    「ぐぐぐ!!」


    「旦那~、車があれば色々と便利ですよ? 私も仕事で使うんで、経費で落としますから」


    「は!? 仕事? お前仕事してんの!?」


    「はい、古美術商を始めました。私は骨董品等の昔のものを良く知ってますので」


    「た、確かに……ガストンはリアルタイムで見てきているから……」


    「旦那、まあ、投資だと思って下さい。商売が軌道に乗ったら返しますんで」


    意外と真剣な顔のガストン。


    「私も……夢や目的を持とうと思いまして……。ミレマーではとても良い経験が出来ました。ミレマーの人たちに感化されたのかもしれません」


    「むむむ、そういうことなら……ガストンの社会復帰支援みたいなものだし……。しかし、車って……」


    (1500年もぼっちで、お客とのコミュニケーションは大丈夫なのか? それにしても、何なんだ? このガストンの社会適応力は……)


    しかし、祐人も驚いた半面、ガストンを応援したい気持ちも湧いてきた。


    車は高い、高いが車種にもよるが、今回の報酬で買えなくも……ない。もちろん、その場合は中古になるだろうが……。


    生活は今までも苦しかったが……何とか、耐え忍んできた。それにこれからも、機関の仕事をもらえれば、何とかなるかも……とも思う。


    祐人は、まるで今までニートだったダメ息子が突然、覚悟を決め、夢に向かって動き出すことを伝えられた父親のような気持になり、悩みに悩む……。


    (でも、こうやって変わっていくのかな……出会いと経験によって。それに、ガストンにとっても挑戦だろうし……)


    祐人はガストンの言うミレマーでの経験、という言葉が心に入ってきた。その国で夢と目的のために、人生をかけた人たちが頭に浮かぶ。


    グアラン、マットウ、そして……ニイナ。


    それぞれに、覚悟を持ち必死に自分のできることを模索し、行動に移した人たち……。そんな人たちであったからこそ、祐人の心を打ったのだ。


    祐人はガストンの真剣な顔を見つめる。


    そして……祐人は組んでいた腕を解き、膝を打った。


    「ええい! 分かった。買うよ! 買えばいいんでしょう! 報酬が入ったら中古車を見に行こう! 今回のミレマーの件はガストン抜きには語れないし、ガストンが仕事を頑張るなら、それでいいよ! でも、報酬内で買えるやつね。今後の生活もあるし」


    「本当ですか!? 旦那! ありがとうございます!! 仕事を頑張って、うまくいったら皆さんにも、ご馳走しますよ!」


    「「「「「おおお! よく分からんけど、いいぞ、吸血鬼!」」」」」「ウガ!」


    何故か、嬌子たちも歓声を上げる。


    これ、まるで論功行賞みたいだ、と祐人も苦笑い。


    祐人にとって、これは中々大きな決断ではあるが、ガストンはミレマーの隠れたMVPだし、とも考える。


    (出世払いにされてる学費とかにも充てたかったかったけど……仕方ない。まあ、これからも仕事をこなしていけばいいか……今回ほどではなくても、機関の報酬は良いだろうし)


    騒ぐ皆の声を聴きながら、祐人は目を閉じた。


    (それに……ニイナさんたちだって頑張ってるんだ。それは、大変で、いくつもの困難があるだろうに。でもきっと、あの人たちなら諦めないに違いない……)


    そう思うと、祐人はまるで勇気づけられたような気持になり、グッと手を握り、目を開ける。その祐人の顔は晴れ晴れとした表情で、まだ喜んでいるガストンたちを見つめ、静かに頷いたのだった。


    「えーと、後は嬌子さんとサリーさんだよね?」


    祐人がそう言うと、酔っ払っている嬌子は、大きな声をあげた。


    「よーし! ついに私の番ね!」


    「私の番ですー。嬌子さんはまとめ役、もしくは司会ですー。ということは、私からですよー」


    嬌子と同じく、お酒で上気しているサリーが異議を唱える。しかも、ちょっと、ふらついているようにも見えた。


    (サリーさんも見た目と違って、お酒好きだよね。何だかんだで嬌子さんと同じくらい飲んでるもんなぁ、しかし、あの量は……どこから持って来てんだろう?)


    祐人は反目で、後ろに転がっている瓶の数を見て呆れる。


    「もう、待ちきれないのよ! それに私は今日、ご褒美もらうから!」


    「私もですー、今日、もらいますー」


    「え? 今日? 今から? えっと、二人ともどんなお願いを……?」


    (何が欲しいんだろう? いや、今日だから物じゃないのかな?)


    と祐人は考え、首を傾げてしまう。


    「ああ、もう! 面倒だから一緒に言えばいいでしょ?」


    「分かりましたー」


    そう言うと二人は立ち上がった。


    「え? 何で立ち上がるの? って、どこに行くの? おーい、二人とも!」


    嬌子とサリーはそのまま、居間を出て行ってしまう。


    何なんだ? と、祐人は残された皆と顔を見合わすが、誰も知らないという反応。


    暫く待っていると、突然、居間の襖が勢い良く開けられた。


    「じゃーん!! お待たせ~、祐人!」


    「え!? ちょっと、それは! 嬌子さん!?」


    襖から現れた嬌子に、祐人は目を丸くし、口を大きく広げ、度肝を抜かれた。


    というのも……なんと嬌子は黒を基調にした大胆なビキニ姿だったのだ


    「私への~ご褒美は……全身マッサージよ! ひ?ろ?と!」


    「ええーー!! マッサージ!? って、その恰好で……!?」


    「そうよ、今からお願いね! うーん、このオイルを塗るらしいから、畳が汚れちゃうわね。じゃあ、お風呂場でしましょうか? ひ?ろ?と!」


    「ななな……ちょっと!」


    嬌子のその圧倒的……まさに圧倒的という表現が相応しいプロポーション……しかも、そのボディ(主に胸)の持つスペックを遺憾なく発揮した黒ビキニ……。


    強烈な色気が猛威を振るい、祐人の視線を釘付けにしたことに満足この上ない嬌子の顔。


    (な、な、す、すごい……すごすぎる。無理! 無理だ……けど、い、いいのかな? そ、そうだ! こ、これはご褒美だ、ご褒美? どっちの?)


    祐人の思春期回路が暴走寸前になり、現状を理解するための脳の処理が追いつかなくなってくる。顔が真っ赤になった祐人……もう、この凶悪な敵に未熟思春期少年に抗う術はなく……ふらりと祐人は立ち上がる。


    「マママママ、マッサージでででですよね? ぜぜぜ全身の! こここ、これは、うん、ご褒美だから! うん! ししし、仕方ななないのかな?」


    その祐人の姿を見て、何故だか分からないが、これは危険な状態だと察知した白が叫んだ。


    「祐人! 行っちゃ駄目ぇぇ! 待って! これは駄目ぇぇ! ちょっと、嬌子!!」


    「ふふふ、これはご褒美なの。子供は黙ってなさい~? さあ、祐人、こっちよ~、いらっしゃい(くくく、効いてる、効いてる!)」


    ふら~としている祐人が嬌子の後に付いていこうとする時、もう一つの襖がバン! と勢いよく開く。


    「お待たせしましたー」


    そこから酔っぱらったサリーが元気よく現れた。


    嬌子の色気全開の姿にフラ~と引き寄せられていた祐人も、背筋を伸ばして驚き、横の襖から現れたサリーに顔を向けると……祐人の脳の回線が混線を起こす。


    「なななななな!」


    祐人はサリーの姿に血圧が上がり過ぎて、もう言葉を使う能力が一時的にマヒをした。


    白たちも啞然。


    今まで上機嫌だった嬌子は振り返りサリーを見ると、ワナワナと体を震わして声をあげた。


    「ササ、サリー! あんたはぁぁ!」


    サリーは2枚の頼りないタオルで胸と腰を隠しただけ……の姿。


    「私へのご褒美はー、祐人さんにマッサージをさせてもらうことですー」


    「このアホ娘! ご褒美なのに、何であんたがマッサージするのよ! しかも、あなたのそのアイデアは……! 一体、どこから! しかもそれがマッサージする側の恰好か!」


    「だって、この方が男性が喜ぶって書いてありましたー。嬉しいですかー? 祐人さーん?」


    祐人はサリーの透き通った肌を惜しみなく晒した姿に目が奪われ……口をパクパクするが、声を出せない。しかも、普段の恰好からは分からなかったが、そのサリーのスタイルはある意味、完璧なフォルム……。


    そして、ついに祐人の鼻から毛細血管を突き破った液体がツーと流れてきた。


    ハッとした白とスーザンがその祐人を見ると、何故か自分の胸を両手で確認し……グーパーを数回繰り返すと……この上なく、やるせない表情をした。


    「うーん? だってー、私の体を使ってマッサージしますからー。雑誌にも、そう書いてありましたー。これで冷え切った夫婦関係も解消ですー」


    「か、体を使って!?」


    祐人の目が血走り、鼻から出る赤い液体の量が増す。


    「何の雑誌よ!! この変態おっとり娘が! 駄目よ! 駄目駄目! これじゃ、私のなし崩し既成事実作戦が!」


    大胆水着姿の嬌子がタオル2枚のみのサリーの両肩を掴んで、襖の外に追い出そうとすると、サリーがブーブーと文句を言いたげな表情。


    二人は酔っぱらっているため、おぼつかない足取りで居間から出ようとするが、主に嬌子とサリーで飲んで散らかしたお酒の空き瓶をサリーが踏んでしまう。


    「な! うわ!」「あらー」


    「って! え!?」


    態勢を崩す嬌子とサリー。


    そして、すぐ横で二人を呆然と伸びきった血塗られた鼻で眺めていた祐人に……倒れ掛かった。そのまま、祐人は二人を支えるように畳の上に背中を強かに着いてしまう


    「あ痛たた!」「痛いですー」


    嬌子とサリーが顔を上げる。そして、下敷きになった祐人に視線を移すと、そこには……目を回した童貞少年が、情けない、しかし、昇天したような顔をしていた。


    「祐人!」


    「祐人さんー!?」


    祐人は一瞬だけ、目を開け、遠くを見つめるように天井を眺めると……。


    「ご褒美…………生きてて……良かった(ガク!)」


    意識を完全に消失。


    「祐人―! ちょっと! 目を覚ましてよ! これからが大事なのに!」


    「そうですー、祐人さんー、夫婦仲を良くするんですー」


    だが、祐人は目を覚まさず、嬌子とサリーは一生懸命に祐人を揺する。


    「嬌子……サリーさん……」


    二人の背後から低音に震える声が掛かった。


    「ハッ!」


    「はうー」


    嬌子とサリーの露わになっている肩が上がる。


    そして、振り向くと……そこにはスリッパを持った白と目を深紅に染めたスーザンが立っていた。


    「あ! 白ちゃん! スーザン! あ、あ、大丈夫よ!? 二人だっていつか大きくなるから!」


    「そ、そうですー。それに肩が凝るだけであんまり良いことないですー。二人ぐらいがいいですー」


    白とスーザンが額をピクッとさせた。


    「……ななな、何の話?」


    「……(コクコク)」


    「あ……あ! ち、違くて! それは……」


    「胸のことですー」


    「うわ! 馬鹿! サリー、あんた! なんて空気を読まない……」


    嬌子とサリーは思いっきりスリッパで叩かれ、延々と説教をされたのだった……。


    横ではガストンの門出を祝う玄と傲光が、何事もなかったようにお酒を酌み交わし、ウガロンが横で尻尾を振っている。


    「ガストン、良かったでやすな!」


    「うむ……御屋形様の気持ちを無駄にせぬようにしなさい」


    「はい、もちろんです。ありがとうございます」


    ガストンは嬉しそうに二人からの日本酒を受けた。


    「私は祐人の旦那に付いていって、また教わったんです」


    ガストンはそのお酒を一気に飲みほす。


    「夢と目的は人を成長させるんだなと。そして、そんな人たちと繋がり、見て、学び、影響し合うと、自分も変わっていけるんだと」


    ガストンは玄と傲光に目を向ける。


    「旦那は、そういう人の夢と目的を守るためだけに、戦っていました。その人たちとの繋がりを放棄してまで……。これは……悲しいことだと私は思います」


    ガストンの言葉に玄と傲光は静かに頷いた。


    傲光は目を回して倒れている祐人を畏敬の念が混じりながらも、慈しむような目で見る。


    「そうですね……これからは私たちが守りましょう。これから御屋形様が手に入れるであろう、繋がりを……」


    「そうでやすな!」


    三人は再び、お互いに日本酒を注ぎ合うと……目の前に盃を掲げ、互いの顔を見合わせて乾杯の仕草をし……一斉にその盃を傾けたのだった。
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