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198-Back to everyday?

    久しぶりの吉林高校で祐人は草むしりに精を出していた。


    清聖女学院からこちらに帰ってきて数日がたつ。


    その女学院から帰る際にされた、一悟と茉莉たちによる『説明』は未だに祐人のトラウマとして脳裏に焼き付いていた。


    「……」


    (もう自分たちの代わりに嬌子さんたちを学校に行かせるのはよそう……瑞穂さんとマリオンさんの姿で何てことしてくれたんだよ、もう)


    じわっと涙がにじむが、祐人は頭を振って草むしりに没頭する。


    今日で草むしりの最終日。


    最後だということで、美麗先生にいっぱいにしなければならない籠を二つ渡された。


    要領のいい一悟は、いい草むしりスポットを見つけたらしく既に草むしりを終えて帰ったみたいだった。


    「はあー」


    溜息をつくと祐人はぼんやりと清聖女学院のことや今回の闇夜之豹のことを思い出す。


    あのあと、瑞穂とマリオンと一緒に機関に出向き日紗枝に報告のための面会をしたのだ。


    結構、無茶をした自覚があるので何を言われるかと思い、緊張していた祐人だったが、意外にも何も言われず「ご苦労様」とだけ言われた。


    「逆に……怖いよな。あの大峰さんっていう人は一筋縄ではいかない感じだし……」


    それと呪詛の件だが、完全に呪詛は解放されて法月秋子もその他の資本家たちの容態は急速に快方に向かったとのことで、瑞穂からもメールで連絡があった。


    あの衰弱し、髪が抜けて涙をしていた法月秋子も元気を取り戻しているとのことで、祐人も心からそれを喜んだのだった。


    「首領、首領~」


    「うわ! また来たの? 鞍馬と筑波」


    「ご褒美を決めたぞ!」


    「うん、決めた!」


    あれ以来、ちょくちょく顔を出すようになった鞍馬と筑波は、突然に姿を現すので祐人も毎回、驚かされていた。


    「あ、ようやく決まったの? 何にしたの?」


    鞍馬と筑波には今回、大きな働きをしてもらったので、祐人はこの二人へのご褒美は奮発しても構わないと思い、二人にはそう伝えたのだが「うーん、考える!」と言い、いまだにご褒美の内容を教えてもらってなかった。


    実は筑波と鞍馬にはあの後も働いてもらっている。


    それは今回、倒した闇夜之豹のことについて、中国政府が逆上するのではないか? と心配した祐人が一つ手を打ったのだった。


    それは……今回、日本の資本家に呪詛を命じたと思われる幹部たちの家に数日、嫌がらせ……いや、もう余計なちょっかいをかけてこないように釘を刺しに行かせたのだ。


    聞けば、夜な夜な寝床に現れる鞍馬と筑波に共産党幹部たちも精神をすり減らしたようだった。


    そして……このことが中国共産党内で長く語り継がれる都市伝説が出来上がることになる。


    それは……、


    『ドンガラガッシャーン事件』もしくは『ドンガラガッシャーンの呪い』と。


    これは祐人も知らない、中華共産人民国でのトップシークレットである。


    これに伴い……張林なる幹部が粛清されていたことも、当然、知らなかった。


    おかっぱ頭にくりくりした目を輝かせた筑波と鞍馬はいつも登場すると祐人の肩に乗る。


    「首領、首領、ご褒美は旅をしたい! 首領とみんなと大勢で!」


    「おうさ! 旅行がいい! 鞍馬と筑波はいつも山の中。たまには他の風景みたい!」


    鞍馬と筑波が耳元で元気よく伝えてきた。


    「へー、旅行かぁ~。そうかー、意外だね、そんなんでいいんだねぇ。よし! ちょっと計画しようか! みんなでって嬌子さんたちとだよね?」


    「ううん、多ければ多いほどいい!」


    「そうそう!」


    「え? そうなの?」


    「鞍馬たちはいつも二人だけ。だれも一緒にいてくれない!」


    「おう、気づいてくれる人も少ないのだ!」


    祐人はちょっと目を広げて、いつもハイテンションなはずの鞍馬と筑波を見つめてしまう。二人のくりくりとした目の内にある気持ちが少しだけ分かったように感じ……祐人は大きく頷いた。


    「分かった! なるべく多くの人に声をかけよう! それでその時は、姿を現したままでいいよ! 鞍馬、筑波!」


    「「おおお!」」


    祐人に抱き着く鞍馬と筑波。相当、嬉しかったようだったので祐人も微笑む。


    その後、草むしりも終わり、二人に抱き着かれたまま立ち上がると、祐人は二人に優しく話しかけた。


    「えっとね……鞍馬、筑波」


    「おうさ!」


    「ちょいやさ!」


    「重いし、しこたま暑いから離れてくれるかな?」


    祐人は次の日の朝、教室に入ると一悟とたあいのない話をした後に、さっそく旅行の話を振ると、一悟はすぐに喰いついてきて、後は俺に任せろ! と豪語した。


    それで旅行の件は一悟に任せることにした。


    あと数日で夏休みだ。


    一悟も何か元々、予定を作ろうとしていたのかもしれない。


    祐人は何となしに燕止水のことを思い出す。


    (燕止水……あれからあの仙人からもコンタクトはない。今、燕止水はどうなっているだろう……)


    そう考え、真剣な顔で祐人は席に着いた。


    (道士とはいえ……そんな簡単な容態ではなかった。もし、奇跡的に助かったとしても、復帰するまでには相当な月日が必要かもしれない)


    志平たちはあのあと、機関から群馬の寒村の空き家を譲り受けたと聞いている。


    また、今後は子供たちも学校に通えるように取り計らってもらったとも言っていた。


    (垣楯さんは、本当にかゆいところまで手の届く人だな……ちょっと尊敬してしまうよ)


    これらはすべて垣楯志摩が段取りを含めて、とりなしてくれたのだった。


    それと祐人はもう一つ、気がかりなことがあった。


    それは……伯爵たちが言っていた“御仁”なる人物。


    想像するに、その人物が魔界の知識をスルトの剣やアレッサンドロたちに流していた可能性がある。


    (一体……何者なんだ? これは堂杜家としても看過できるものじゃない。このことは爺ちゃんや父さんに伝えなければならないな……。今は考えられないけど、もし、魔來窟を通さずに魔界との門を開くなってことがあれば……。今は父さんが魔界で各国との連携をとりなしているみたいだけど……)


    祐人の目に不安の光が宿った。


    (魔界にある3つの国家の裏で……何かが起きているのかもしれない。魔の者は人の負の感情から力を得ることができる……。こちらの人口は魔界の比じゃない。もしや……それを? 場合にってよっては僕も魔界に赴かなければならないか……)


    ふと気づくと、もうあと一分でホームルームの時間だ。担任の超クールビューティ高野美麗先生が現れるはずなので、体を前に向ける。


    クラスの全員がする体に染みついた行動だ。


    ところが……どうしたことか、美麗が現れない。


    あり得ないことだと、教室内がざわめく。


    すると、数分遅れて教室のドアが開いた。


    だが、現れたのは教頭の菅仲先生だった。何事かと生徒たちにも緊張が走る。


    「ああ、すみません。今日は転校生が4人も来たので遅れてしまいました」


    途端に教室内が大きく騒ぎ出す。というのも、当然だろう。こんな夏休み直前に転校してくるなんて聞いたことがない。


    祐人も何だろう? と思ってしまう。


    「ああ、転校生はこのクラスではありませんよ? この学年はAクラスとBクラスとEクラスに一人づつ来たんです。今、そこをまわってきたので遅れてしまいました。もう一人は2年生です」


    「なんだぁ~」


    「男ですか? 女の子ですか?」


    等々と当然の質問が飛び交うと、教頭はおっとりとした口調で丁寧に答えた。


    「全員、女の子ですよ。興味のある方はあとで休み時間にでも挨拶にいってください」


    「「「おお!」」」


    主に男子から歓声が上がる。当然、一悟も喜色ばんでいた。


    「今日は高野先生に急遽、学校の用事が入りましたので、代わりの先生を紹介しに来ました。新任の先生ですがよろしくお願いしますね。主に体育を担当する予定です。どうぞ、入って来てください、先生」


    「……うむ」


    紹介を受けたその新任らしい先生が入ってきた……のだが、生徒全員が息を飲む。


    というのも、その男性のジャージを着た先生は、全身に包帯を巻いていたのだ。


    どこから見ても超重傷を負った、病院で絶対安静にしておかなければならない患者にしか見えない。


    クラスの生徒は唖然として見つめている中、祐人は驚きのあまり顎が外れそうになった。


    「あ、あ、あ! あんたぁぁぁ!!」


    思わず立ち上がり声を上げてしまう祐人。


    教頭の菅仲は祐人の絶叫に驚くが、顔をしかめて祐人を諫める。


    「うん? まさか君は先生と知り合いなのかね? しかし、学校内では先生と生徒ですよ? あんた、なんて呼び方は感心しませんね」


    「あ……う、うう、すすす、すみません」


    教頭に諫められて、気まずい顔になる祐人だが、まだ、興奮を抑えることが出来ずに体を震わしてた。


    「はい、では自己紹介を、先生」


    「燕鴻鵠(えんひろまと)だ。まだ、新任でどうしてここにいるのか、何が何のことやらさっぱり分からぬが、よろしく頼む。それと教頭とやら、そこの失礼な少年は知らぬ。他人と勘違いをしている可哀想な子だと思うので、許してやってほしい。失礼な奴だが」


    (何ぃぃ!?)


    「おお、そうでしたか。それでは問題ないですね。では皆さんよろしくお願いしますよ。それでは私は行きますので。ちょっと羊羹の届く日程の整理を……」


    祐人は歯ぎしりをして、新任の風変りというには生ぬるい包帯だらけの先生を睨む。


    言うまでもない、明らかにその新任の先生というのは……、


    燕止水その人であった。


    (問題ない? どこがぁぁ! というかどうしてここに!? 教員の免許もないだろうが! ああ、もうどこから突っ込んでいいのか……)


    頭を抱える祐人は頭が整理できない。


    「では、そのホームルームというのをしなくてはならないのだが……そこのお前、ホームルームとは何か、俺に教えてみろ。どんな人間にも分かりやすいように簡潔にな」


    「え!? 僕ですか!? ホームルームはホームルームで他に言いようが……」


    燕止水……ならぬ燕鴻鵠は一番前に座る男子生徒をさし、無茶ぶりをする。


    「何だ、その説明は? 哲学か? 他にホームルームを教えられるやつはいないのか?」


    正直、生徒たちはこの新任の先生がどういう人間なのか分からないが、淡々とした新任先生の言いようは、生徒たちには面白かったらしく、段々、教室は笑顔に包まれていった。


    「はい、先生!」


    「うむ、なんだ」


    「ホームルームは朝礼のことで、今日の連絡事項や優先事項を伝える時間のことだと思います」


    「……なるほど、そういうものか。お前は優秀なやつだな、簡潔で分かりやすい」


    「ありがとうございまーす!」


    教室から笑顔がもれる。


    「うわ、変わった先生だなぁ。包帯を全身に巻いてるのがキャラだとしたら濃すぎるわ」


    「でも、なんか怒らなそうでいいんじゃない?」


    「そうだね、あとで話しかけに行こうか!」


    「そうね!」


    そのような中、祐人だけは顔を引き攣らせていた。


    ホームルームにもならない燕止水に生徒からの質問が集中しただけの時間も終わると、祐人は止水に近寄り一緒に職員室に向かった。


    「何をやってんだ? あんたは……。いや、体の方は? 大丈夫なのか?」


    「うむ、実は俺にも何が何なのか分かっていない。目を覚ましたところで、師にここで働けと言われただけでな。どうやら、色々と師には助けられたらしい、あの師がこんなことをするとは意外だが」


    「は? それでどうしてここで働くことになるんだよ」


    「それも分からん。ただ、助けてもらった見返りに、ここで働いて羊羹代を稼がなくてはならないらしい」


    「羊羹? なにそれ?」


    「分からん」


    「あああ……もう何が起きて、どうしてこうなってるの? 聞いても意味不明な疑問が増えるだけだし……。あんたの師匠はなんなんだよ、もう! あ……仙人か……じゃあ、考えるだけ……」


    「無駄だな。俺ももう諦めた」


    祐人は大きく肩で溜息をつくと、止水に顔を向ける。


    「志平さんとは連絡をとったの?」


    「ああ、昨日、事の次第を説明した。あいつも意味が分からん! と怒ってたな」


    「ああ……そらそうだろうね。志平さんも苦労性っぽいし、今頃、イライラしてるんだろうなぁ。でも……」


    「でも……何だ?」


    「いや、何でもない」


    止水は祐人がニヤリと笑うのをみて一瞬、不愉快そうな顔を見せたが無視をして前を向いた。


    (志平さん……泣いてただろうな)


    「休みは帰るんだろう? 志平さんとこに」


    「当り前のことを言うな。毎週は帰れそうにはないが、あそこが……あいつらのいるところが俺の帰る家だからな」


    「……そうか」


    「闇夜之豹のことは聞いた」


    「え!? 誰に?」


    「師が言っていた。一応、礼は言っておく」


    「あれはこちらの問題だったんだよ。別にあんたのためじゃない。まあ、運が良かったね、あんたにとっては」


    「フッ……では、礼は撤回しよう。ああ、それとお前には言っておく。俺は先生だ。言葉に気をつけろ。敬語を使え、分かったな」


    「なんだよ、そんな体で。まあ……これからは気をつけるよ、燕先生」


    「ふん」


    こうして祐人は止水と職員室の前で別れた。


    祐人が自分の教室に戻ろうとすると、なんだか教室が騒がしい。特に男子の歓声が聞こえてくる。


    (何だろう?)


    首を傾げつつ教室内に祐人は入るや、一悟が大きな声を上げた。


    「あ! 祐人! どこに行ってたんだよ!」


    人だかりの中心から顔を出した一悟の顔は焦っているようにも見える。


    「な、何? どうしたんだよ、騒がしいな、一悟は」


    「馬鹿! おまえ今日、教頭先生が言ってた転校生ってのはなぁ!」


    一悟がそこまで言うと一悟の後ろから4人の少女の声が聞こえてきた。


    しかも、その声は明らかに不機嫌で腹の底から出しているのに声量は押さえているような話し方。


    「祐人……どこに行ってたのよ」


    「そうです……やっと来ましたね、祐人さん」


    「堂杜さん……」


    「堂杜、やっと来たな」


    祐人が声の方向に顔を向けると……そこには見て知った顔の少女たちが並んでいる。


    「ええーー!! 瑞穂さん、マリオンさん、ニイナさん! しかも蛇喰さんまで! え? え? 転校生って瑞穂さんたちのこと!? どうして!?」


    「どうして、じゃあないわよ……全部、あなたの仲間のせいよ」


    「はい……ひどいです」


    「わたしなんて完全にとばっちりです」


    「私はパパ様に一人で暮らせって言われた」


    瑞穂たちの言っている意味は分からない……いや、なんとなく伝わるものはあったが、あまりの少女たちの背負う気迫に祐人は後退る。


    「え? それは、どういう……?」


    瑞穂の、マリオンの、ニイナの目がカッと見開く。ちなみに花蓮は前髪が邪魔で目が見えない。


    「ひ!」


    「あんたが大丈夫だって言ったぁぁ、仲間たちがぁ! 私たちのいない間に学院で暴れまわったせいで、学院長から出て行ってくださいと頭を下げられたのよ!!」


    「私もです! もう、ものすごい恥ずかしかったです!!」


    「私なんて、その手下みたいな扱いでした!! 誇り高いミレマーの淑女がこんな扱い、耐えられません!」


    「一人暮らしは寂しい!」


    「のわ!!」


    瑞穂が祐人の胸ぐらを掴むと涙目で訴えた。


    「どうしてくれんのよ! もう恥ずかしくて、社交界に顔も出せないわ!」


    「ひー、で、でも、何で吉林高校に!?」


    「ここしか受け入れがなかったの! さすがに四天寺が高校中退は出来ないでしょうが! どこのお嬢様学校も、噂のたった問題児なんか受け入れてくれないわよ! しかも、こんな変な時期に! それで明良が一つ、心当たりがあるって言って、編入できたのがこの学校だったのよ!」


    「お、落ち着いて、瑞穂さん、分かった! 後で話そう! 昼休みにね、ね! ほ、ほら授業が始まっちゃうから! ね!」


    この祐人の言葉に何とか落ち着いた瑞穂たちは、昼休みに会う約束を固く交わしてようやく出て行った。


    「な、何があったの?」


    隣のクラスの茉莉が騒ぎに気づいた生徒たちに紛れて現れ、静香を見つけて話かける。


    「あー、それがね……昼休みにすべて話すよ」


    と、静香は引き攣った顔で返事をした。


    昼休み……祐人たちは学食に集まり、今回の経緯を詳しく聞くことになった。


    瑞穂たちが集まると異様に目立ち、広い学食の端に集まっているのだが、周囲の視線が集まっている。特に男子生徒の注目度が高い。


    其処彼処から、


    「白澤さんクラスがいっぱいいるぞ、おい」


    「可愛いすぎる……あの金髪の子、二次元世界からきたみてーだ」


    「いや、俺はあの黒髪の子に踏みつけられたい! 奴隷にされたい!」


    「俺はあの小柄な美少女がいい……どこの国の子だろう。知的な感じがまたいい!」


    というような声があがっていた。


    「私の注目度が低いのは何故か!?」


    「うん? 花蓮ちゃん、どうした?」


    「なんでもない……」


    一悟と花蓮のやりとりの横で、今回の転入に至った話を聞いていくうちに、祐人の顔がどんどん青ざめていく。


    「えーー! そんなことがあったの!? 嬌子さん……サリーさん、あの人たちは……」


    「そうよ! 学院での私の呼称は『天使の羽根女帝』よ! しかも……胸が小さくなったっていう辱めも……」


    途中から瑞穂の声が小さくなる。


    「私なんて『モフモフしっぽ女組長』ですよ! 学院では放課後になるとスカートの下にしっぽをつけるとか、わけの分からないことをさせられて……組長が範を垂れなければ示しがつかないとみんなの剣幕に逆らえず……ああ!」


    顔を両手で覆うマリオン。


    「二人はまだいいです! それでも組織のトップです。私なんて……ふくよかさが足りないって……どちらの組織からもアドバイスを散々受けて……」


    涙目のニイナ。


    「私はパパ様にこれを機会に一人暮らしを……」


    「さっきから蛇喰さんだけ個人的理由だよね!」


    一悟、茉莉、静香も現場である程度、見ていたこともあり、何とも言えない表情。


    「これも全部、祐人のせいだから!」


    「うわ! ご、ごめんなさい!」


    頭を深々と下げる祐人。


    「でも、そうは言っても、よくこんな時期に、しかもやたら早く、うちに編入できたな。本当にうちって適当だよな」


    一悟は呆れたように腕を組んだ。


    「ああ、明良がここなら交渉できるって、言い出して……」


    瑞穂も首を傾げる。


    「でも、まあ、ちょっと経緯はアレ……だが、まったく知らない人しかいない学校より良かったじゃないか、なあ、白澤さん」


    「え!? そ、そうね」


    茉莉は突然、話を振られて慌てて頷いた。


    そして、瑞穂たちの方に目を向ける。


    「最初は慣れないと思うから、何でも相談してね」


    茉莉の申し出に瑞穂とマリオン、ニイナも肩の力を抜いたように頷いた。


    「ええ、ありがとう……白澤さん」


    「はい……実は私、人見知りがあるので助かります」


    「よろしくお願いします」


    「私も頼む」


    「花蓮ちゃんが年上だったのは驚愕だわ」


    「うん……本当だよね」


    一悟と静香が互いに大きく頷き合う。


    「おい! それはどういう意味だ!」


    ここで祐人は茉莉の横顔を見て、あることを思い出した。


    (あの時の……燕止水との戦いにの時に聞こえた茉莉ちゃんの声……あれは、一体。あとで茉莉ちゃんに確認しようかな。でもあれは、明らかに霊力だったよな……)


    その祐人の視線には気づかず、茉莉は瑞穂たちを複雑な気分で見つめていた。


    というのも……茉莉は自分の祐人に対する気持ちに気づき、そして正面からそれを受け止めることが出来ている。


    だから、茉莉は色々と今後のことを考えていたのだ。


    祐人をどう自分に振り向かせようかと。


    ところが、そんなときに現れた瑞穂たち。


    この3人が転入してくるなど想像だにしていなかった。


    茉莉にだって分かっている。この3人が祐人のことをどう想っているか。


    そして、強力なライバルになるだろうことも。


    正直なところ、茉莉は自分が祐人と同じ学校に通っていることを大きなアドバンテージだと思っていたし、事実、その通りなはずだと思っていた。


    それが、今日、むなしく霧散してしまった。


    だが、茉莉は少々、気落ちしそうになった自分を奮い立たせる。


    (ううん、私はこれから、祐人を追いかけると決めたの。もう一度、祐人が自分のところに、なんて思わない。自分から行かなくちゃ。前に出なくちゃ!)


    「四天寺さん、マリオンさん、ニイナさん」


    茉莉に声をかけられ、うん? と瑞穂たちは茉莉に顔を向けた。


    「今回の件は本当に大変だったと思う。私も祐人に代わって謝罪するわ。祐人が迷惑をかけてごめんなさい」


    「「「……は?」」」


    ピキィ! と空気が凍る。


    一悟は目を広げ、静香は驚いた後にちょっと笑う。


    「え!? ちょっと茉莉ちゃん……茉莉ちゃんは悪くないよ! 僕の仲間が迷惑かけたんだから」


    「祐人は黙ってて?」


    「のひょ!」


    茉莉は笑顔だったが祐人の生存本能が突然に警鐘を鳴らした。


    瑞穂、マリオン、ニイナは茉莉の言っている意味を正確に受け取る。


    そう……これは、


    宣戦布告なのだ。


    徐々に瑞穂たちはそれぞれに笑みをこぼし始めた。


    「ふふふ、そんな白澤さん。他人の白澤さんが謝ることなんてないわよ? 他人の」


    「そうです、まったく関係のない白澤さんが謝るなんて……ふふふ、これは祐人さんの、あくまで祐人さん個人にだけある責任ですから」


    「そうですね……白澤さんはちょっと気にしすぎですよ? 自意識かじょ……じゃなくて、堂杜さんが自分の責任を誰かに肩代わりなんてするわけがありません。肩代わりする人もこの世に存在しませんし。祐人さんが私たちに謝るだけですべて終了です」


    「な、何? みんな何の話をしてんの?」


    突然の異様な雰囲気に祐人は4人の顔をそれぞれに見渡す。


    「うわ~、白澤さん頑張ったなぁ」


    「そうだね、やっぱりライバルが燃え上がらせるのよ」


    小声で話し合う一悟と静香。


    そこに花蓮が立ち上がり……一悟の袖を引っ張る。


    「うん? どうしたの花蓮ちゃん?」


    「トイレの場所が分からない……連れてって」


    それを横で見た静香が思わず、静香らしからぬ声を上げる。


    「ちょっと! 蛇喰さん、そんなのは女の子に聞くことでしょう! 私が連れて行ってあげるから!」


    「私は袴田に頼んでる。ちっこいのは下がってて」


    「何ですと!? 蛇喰さんに言われるとは!?」


    「お、おいおい……何を興奮してんだよ、水戸さん。こんな子なんだから仕方ないだろう。分かった、分かった、んじゃ、連れてってあげるわ」


    「頼む」


    「え!? 袴田君!?」


    一悟は立ち上がると、花蓮をトイレに連れていった。


    その二人の後ろ姿を静香は、何とも言えない顔でジーと見つめている。


    「……もう!」


    静香は珍しく不機嫌そうに頬杖をついた。


    その横では4人の少女たちによる応酬が続いている。


    「いえいえ、祐人の不手際は私の監督責任でもあるから」


    「祐人は一人で生きていける男よ? 常に一人で」


    「そうですね、祐人さんは自己責任においてたとえお金がなくても、誰にも頼らず生きていける人です。一人で」


    「堂杜さんって一人が似合っていますしね」


    「ちょっと! 何の話!? 何で僕がそんなに独りぼっちな感じなの!?」


    「「「「うるさい(です)!! 女同士の語らいに男が入ってこないで!」」」」


    「はひ!」


    この様子を静香は苦笑い気味に見つめ、


    「私も人のこと言えないなぁ……」


    と漏らすのだった。


    この後、帰ってきた一悟が旅行の件を持ち出し、夏休みにみんなで海に行くことが決まったりする。
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