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285 Lesson 276: Anxiety

    「まさか、こんな事になるなんてな」


    「す、すみません……」


    ハルの放った一撃により、アラルカルフェーズ2は3人が無事なまま終了した。うん、確かに終了はしたんだが、新たに問題もついでに発生した。ただ今ハル達は正座状態にある。


    「んー、見事にコアが破損してるわね。これじゃフェーズ3への移行は無理」


    「勢い余って、コアまでぶっ飛ばして破損させるとはな。いやはや、恐れ入ったよ」


    「「「ごめんなさい」」」


    3人が力を合わせて編み出した、あのハルの一撃は強力だった。いや、強力過ぎた。個体としてのステータスは昔のままな筈のアラルカルの防御形態を打ち破り、それどころか最深部に安置されたコアに大打撃を与えるに至ったのだ。


    本来コアに触れられたアラルカルは、そのまま最終段階であるフェーズ3に移行する手筈だったんだが、こうなってしまっては最早続行は不可能。ネルが鉄扉から連れ出した際の小さなサイズに戻り、現在必死に自己修復をしているところである。


    「別に正座なんてする必要ないって。俺達は怒ってなんかないよ。なあ、ネル?」


    「ええ、それどころかちょっと感動しちゃったくらい」


    「へえ、やっぱ感動してたのか。人の事を散々甘いだのと言ってたのに」


    「うっ……! ちょ、ちょっと、揚げ足を取らないでよ、もう!」


    「ハッハッハ、冗談冗談」


    「「「………」」」


    隙あらばいちゃいちゃ。と、俺が満喫したところで総括する。3人とも、目のやり場に困ってるのか、視線が泳ぎ始めたしな。真面目にやろう。


    「冗談はこの辺にして、本当に俺の予想以上の結果だったよ。千奈津の状況把握と支援は申し分なかったし、刀子はチームプレーを完璧にこなしていた。以前のお前らだったら、ほぼ考えられない成果だぞ。成長したな」


    「そ、そうか? へへっ……」


    「刀子、口元がふにゃふにゃになってるわよ」


    「はいはい! 師匠、私はどうでした!?」


    「ハルはいつも通り何事にも全力だったな、よしよし」


    「へへ~」


    にかっとハルが微笑み、ポニーテールが揺れる。冷静を装う千奈津や相変わらず顔を赤らめる刀子も、どうやら緊張がほぐれたようだ。


    「特に最後のアラルカルを行動不能にした合体攻撃は見事の一言だ。あれなら、喩え相手がネルであったとしても、素手では迂闊に触れられないぞ」


    「えっ、そんなにですか!?」


    「そんなにだよ。謙遜とは、ハルにしては珍しいじゃないか」


    「そうね。私の紙装甲じゃ、ちょっとじゃ済まないくらいに辛いわ。私だったら受けには回らず、攻撃を出させる前にその攻撃ごと仕留めるようにするけどね」


    「そ、そうか…… なあ、喩えの話だからな? そんなにムキにならなくてもさ」


    「ムキになんてなってない!」


    なってるじゃん……


    「無我夢中でやったから自覚ねぇけど、そんな威力あったんだな、あれ」


    「確かに、ドッガン杖から伝わってくる衝撃が凄かったかも…… 刀子ちゃん、もう1回! もう1回やってみよ!?」


    「今からかよ。もう俺、かなりクタクタなんだけど…… 自分以外に気を送るって、かなり神経使うんだよ……」


    未だ元気に飛び跳ねているハルに呆れながら、刀子は女の子座りで鍛錬場の床に座ってしまった。うーむ、前は臆する事なく胡坐をかいていたのにな。これもリリィ式教育の賜物か。


    「あのレベルの攻撃なら、中位までの大八魔には通用するかもな。もちろん、ダメージが通るかどうかって意味で、勝てるかどうかは別の話だ。その辺は勘違いしないように」


    「はーい!」


    「分かってるよ、デリスの旦那」


    慢心せず、とても素直。大変よろしい。


    「あと千奈津、プルートなしでよくあそこまで戦えたな。さっきも言ってたけど、ネルが感動してたぞ」


    「恐縮です」


    「そんなに固くならなくても良いわよ。上司として、そして師匠としても鼻が高いわ。そろそろ貴女には、自分に合った武器を持たせないとね。あくまでもプルートは、私の力に合わせて造らせた剣だもの」


    「私に合った武器、ですか?」


    「つっても、武器の造型はあまり変わらないと思うけどな。剣になる事は確かだろう。 ……いや、刀の方が千奈津向きか?」


    千奈津に刀を持たせたら、黒髪が相まってザ?女剣士って感じで映えるような気がする。ハルも黒髪ではあるけど、こいつの場合は、その――― 存在がモンクっぽい。


    「あ、私もそれが良いと思います! 千奈津ちゃんに刀、格好良いです! ねっ、千奈津ちゃん!」


    「は、悠那、落ち着いて……」


    「刀って、ガルデバランの剣みたいに片刃の? 私は構わないけど、それならガルデバランに使いを出さないとならないわね」


    「へー、刀ってこの世界にもあるのか。でもよ、かなり高価なもんなんじゃねぇのか、刀って? 専門外だから、俺もよく分からねぇけど」


    「問題ないわ。お金と素材を渡して少しお願いすれば、気前良く受けてくれるでしょう」


    「……ネル師匠、あまり無茶はしないでくださいね?」


    「ふふっ?」


    ネル、渾身の笑顔。ああ、お前が頼めば採算度外視でやってくれるだろうよ。誰しも、故郷を焼け野原にされたくはないからな。


    「刀子の分の褒美も、後でリリィヴィアにお願いしておいてやるよ。パーフェクト状態のあいつなら、何か有意義なものを準備してくれるだろ」


    「俺は旦那から貰った方が…… ああ、いや、何でもない。立場は弁えねぇと」


    「ハハハ…… あー、ハルにはどうしたもんかな。今使っているドッガン杖はこれからの戦いにも通用する武器だし、俺秘蔵のスクロールも順次覚えさせてるし……」


    今更ハル用に買い揃える必要があるようなもん、なくね?


    「あ、それなら久しぶりに組手してほしいです! 今の私、いつもより感覚が研ぎ澄まされているんで!」


    「今組手なんかしたら、俺の方が冷や冷やもんな気がするんだが…… まあ、ハルがそれを望むなら構わないけどさ。そろそろ両腕で相手してやるよ」


    「おお、片腕からランクアップ! よろしくお願いします!」


    「……え? 旦那、今まで悠那を相手に片腕で組手してたのか!?」


    「ブランク解消も兼ねてな。けど、流石にそろそろキツイわ」


    刀子は驚いているようだが、お前だってネル式教育を受けた時、片腕どころかデコピンで気絶しただろうに。それに俺の場合は、技術面が圧倒的なまでにハルに負けているから、基本スペックで誤魔化し誤魔化し済ませているのだ。こんな師匠面全開な台詞を吐くのも、要は強がっているだけ。今更驚くような事は何もない。


    「言っておくが、1ヶ月半の修行でここまで強くなるなんて、異常も異常なんだからな?」


    「実際問題、よくここまで悠那の後に付いて来られたなと、自分でも不思議なくらいです」


    「でもよ、いまいち自分の強さにピンと来てないんだよなー。また悠那に負けちまったし、晃に勝ったところで自慢にもなんねぇし」


    そりゃあ、強くなる度に敵対する相手のレベルも上げてるもの。晃に関しては、確かに残念な実力だった。死体はヴァカラに引き渡したんだっけ? 今頃どうなってる事やら。


    「自分の強さねー…… そんなもの、状況次第でガラリと変わるもんだ。例え相手の実力より勝っていたとしても、調子が最悪なら負けるかもしれない。汚い手を使われて人質を取られたり、罠に誘い込まれでもしたら、もっとやばいだろ?」


    「師匠の得意戦法ですね!」


    得意じゃないし。必要だからやってるだけだし。


    「兎に角強さなんて曖昧なもん、気にし過ぎるなって事だよ。無駄に腹が減るだけだ」


    「了解です、鍛錬に集中します!」


    「よろしい」


    ……しかし、そういう意味じゃアレゼルのところでの鍛錬は、ハル達の為になるかもしれない。あいつはネルやマリアに次ぐスピードは有しているが、決して戦闘向きなステータスではないのだ。非力だし、魔法だって俺やネルに劣る。仮にさっきのハルと刀子の合体攻撃が直撃すれば、耐久値の低いアレゼルは一発で沈んでしまう可能性だってある。が、それでも俺は、元仲間だの屈指の商社だのといった話を抜きにしても、あいつとは絶対に戦いたくない。恐らく、これに関してはネルも同じ意見になると思う。あの守銭奴腹黒エルフの本性を知った時、ハル達はこれまでとは違った強さを学んでくれるだろう。だけど、うーん……


    「アレゼルのところで、心が折れなきゃ良いが……」


    「え、今更?」
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